ソラの方舟

プロローグ~神の独り言~

 月暦2576年、アスタロト星は一度滅んだ。なに、隕石が落ちた、星の寿命が尽きたなどという止むを得ない理由からではない。私が無に戻したのだ。月暦元年、つまりは人間が誕生した年と人間が決めた年あたりから世界の秩序が乱れ始めた。実を言うと人間の誕生はもっと前だが、奴らの脳では知り得ないことだ。もっとも、各地に小国家郡ができ、富のために争い合い始めた頃から期待などしていなかったが。しかし、奴らは神への信仰心をなくすだけでなく、人々をまとめるために神を散々利用した。その挙句、問題が生じれば全て神のせいにする。そうした責任逃れを飽きるほど見てきた。末期には神への信仰心が薄れてき、あろうことか友人にまで責任転嫁する始末。私は辟易(へきえき)した。そんな下衆どもをどうして助ける必要があるだろうか。

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 貴方達はアスタロト星末期に何が起こり、私が何をしたかは後々知ることになるだろう。ただ、今はその時ではない。今はただ、私が全てを白紙に戻し、魔力という概念を注ぎ込み、見事適応して見せた新アスタロトの世界を見てもらうことにしよう。

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第一話

 周り一面、岩で埋め尽くされた空間に18歳の少年と少女の計二人。しかし、ここはダンジョンでも迷宮でもない。では、どこなのか。ここは図書館の隠し扉から階段を降りたところにある洞口。そこから声が聞こえる。

「本当にこれでいいんだよな?」

「合っているはずよ。どんなけ練習したと思ってるの?」

「それはそうだけどよ••••••」

「何弱気になってんのよ。貴方がやるって言ったんでしょ?なら最後までやり遂げなさいよ。」

「お、おう。それもそうだな。悪かった、もう大丈夫だ。心配させてごめんな。俺やるよ。」

「え、うん。分かればいいのよ。分かれば、ね?」

そう一人で少女は納得し、何故か頬を少し赤らめた。

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 その少女の隣で少年は目を閉じ、呪文を唱え始める。空間魔法の詠唱だ。すごく長い。高度な空間魔術に違いない。上級魔法、あるいは最上級魔法にまで到達しているのだろうか。

 少年の詠唱が終わるや否や、少女が詠唱を始める。顔は真剣そのものだ。こちらは時間魔法、時間を司る魔法だ。これは古代魔法であり、到底人間の努力ではたどり着けない境地にある。なのでこの少女は時空魔法を持ち、産まれてきたことなのだろう。これが、少女にとって幸か不幸かは定かではないが、少なからずいざこざは起こったことだろう。

 

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 少女は、少年よりも時間をかけ、詠唱を終わらせる。心なしか二人の頬が赤いのは手を繋いで密着しているからだけではないのだろう。その証拠に二人の周りで光の粒子が踊り出す。その粒子が集まったかと思うとその瞬間、花火が花開いたかのようにあたり一面光で埋め尽くされ、やがて消えた。そして、そこに残ったのは少女の腕につけていたブレスレッドと、鎮静した空間のみだった。

 後にこのブレスレッドがディメンションリングとして国宝級の装備になるのだが、それとこれとはまた別の話である。

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少年①

 ここはどこだ?気づくと虚無に投げ出されていた。体は動かない。正確には動かし方がわからない。確かさっきまでアヤカと共に呪文を唱えていたはずなのだが。目的は、目的は……なんだっけ?まあ良いや、考えるのがめんどくさい。

 ちなみにアヤカと言うのはご存知の通りの少女だが本名ではない。本名は知らない。ではアヤカとはなんなのか。

 それは僕らが生まれた国になる前の国、ジャンバーン国の民の名を継承するために各個人に付けられた愛称、所謂あだ名みたいなものだ。この名が思いのほか発音しやすく、聞きやすいので浸透したらしい。詳しいことも本には書かれていなし、誰も気にしていないみたいだ。

 それでこの国では本名は滅多に使用しないと言う奇妙な文化が生まれた。

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