ゴリラのたまご

「マーヤ、ついてきちゃダメだ。お母さんのところにいなさい。」

「えー、けちー。」

そう言って、私は戻るふりをして、隠れてお父さんの後をつけた。

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私の名前はマーヤ。
10歳の女の子。
頑固なお父さんと、
いつも優しいお母さんと、
3人で暮らしている。

お父さんは、トレジャーハンター!
お父さんが狙うお宝ごとに、私たちはよく引っ越しをするの。
お宝は世界中にあるんだって!

お父さんは変わり者だって周りの人によく言われるけど、私はお父さんがだいすき!

私は、お父さんのようなトレジャーハンターになるのが夢なの!

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お父さんがいま狙っているのは、森の奥深くに住んでいる巨大なゴリラの卵。

この新種のゴリラは、1年前に発見されたんだけど、なかなか近づけなくて、調査ができないんだって。

そんななか、ゴリラなのに、たまごを育ててる姿を研究員が見て、あの卵を調査すれば、ゴリラのことがわかるんじゃないかって思って、私のお父さんに、卵を取りに行って欲しいっていう依頼が来たんだって。

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もう何ヶ月も、森のルートを確認したり、ゴリラの行動を観察して、
ついに今日、卵を取りに行くんだって、お父さんが張り切ってた。

だから、どんなふうにお父さんが卵を取るのか、見てみたくて、ついていこうとしたの。

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お父さんは、慣れた足取りで、森の奥へとどんどん進んでいった。

私は、お父さんの背中を見失わないように必死だった。

「あっ!!」

足を踏み外した私は、大きな尻もちをついた。

声に気付いたお父さんが私の方へ駆け寄ってきた。

「マーヤ、大丈夫か?怪我はないか?
ついてきちゃダメだっていっただろう。
まったく。言うことを聞かない子だ。」

お父さんは、呆れながら言った。

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「さ、一緒に家に帰ろう」

「え?卵を取りに行くんじゃないの?」

「マーヤを一人でここに置いていくわけにはいかないし、来た道を一人で帰すのも危険すぎる。」

「私もお父さんと一緒に行く!卵取りに行く!私、絶対お父さんの邪魔しないから!」

「バカなことを言うな。この先がどんなに危険かわかってるのか?
死ぬかもしれないんだぞ?
お父さんは、マーヤを失いたくないんだよ。
わかってくれるな?」

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「私は、お父さんの子どもだよ?
今回行けなくても、何回だってついて行くからね!
頑固なのは、お父さんの子どもなんだから諦めてね!」

私は少しむくれてみた。

「まったく。マーヤには敵わないよ。」

お父さんは呆れながら、この後の計画について、話してくれた。

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こんな危険なところに10歳の子どもを連れて行くなんて、信じられないと思うかもしれない。

でも、私の好奇心はどんどん強くなっていき、頑固さもさらに増した。
こうなったのは、私が小さい頃から、お母さんが反対するのを無視して、お父さんがいろんな危険なところに私を連れて行っていたからだと思う。

私はいつも大喜びでお父さんの後をついて行った。

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お父さんが"ゴリラの住処"と言っていたところが見えてきた。

いまは、ゴリラは住処を離れているらしい。

「マーヤ、ここにいるんだ。
いいか、絶対に音を立てるんじゃないよ。」

「うん。」

私はワクワクした。
目の前に、卵がある!

お父さんが卵に手を伸ばそうとした、その時、

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「お父さん!!! うしろ!!!」

ゴリラは、いつの間にか住処に戻っていて、お父さんの後ろにいた。

「マーヤ! 一人で家に戻るんだ!
いいな、約束だぞ!!」

「お父さん!! 待って!行かないで!!」

お父さんは、来た道と反対側に走って行った。

私が帰れるようにしたんだと思う。
お父さんが死んじゃうんだと思ったら、一人で逃げるなんてしたくなかった。

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「おーい!ゴリラさーん!
そっちじゃないよー!
こっちだよーこっちだよー!!」

私は、できるだけ大きな声で、ゴリラを呼んだ。
でもゴリラはお父さんの後をゆっくり追いかけ始めた。

「こっちに来ないと、この卵持ってっちゃうよ!!」

卵を持って、ゴリラの気を引こうとした。

「わぁっ!!」

思ってたより卵が重くて、尻もちをついた。

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ゴンッ

鈍い音がした。
尻もちをついた時に、岩の上に卵を落としてしまった。

卵には穴が空いていた。

「ウォーーー!!!」

耳が潰れそうな声だった。

卵の異変に気付いたゴリラが叫びながら私の方へ走ってきた。

「ごめんなさい。ごめんなさい。
そんなつもりじゃなかったの。
ほんとうにごめんなさい!!」

私は、大声で泣きながらゴリラに謝った。

ゴリラが私を捕まえようと、手を伸ばしたその時、

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<バン!バン!バン!>

大きな銃声が聞こえた。

ゴリラの声を聞きつけた猟師たちが、ゴリラを撃っていた。

「お嬢さん、早く逃げるんだ!
はやく!!」

私は、泣きながら全力で走った。
後ろを振り返らず、ひたすら走った。

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どれくらい走り続けたかわからない。
もう、足の感覚がなくなるほど走り続けた。
10歳の子供が全力で走ったところで、あんな大きなゴリラにすぐに追い付かれてしまうのに。
どうしてゴリラはすぐに来なかったのか、わからない。
卵を抱きながら悲しんでいたのか、家族や仲間を呼びに行ったのか。

私は走り続けた。
森の入り口までたどり着くと、お母さんが待っていた。

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「マーヤ!
なにがあったの?
お父さんは一緒じゃないの?
さっきの叫び声は何?銃声は?」

「お母さん、、わたし、、私、
大変なことしたったよ。
どうしよう。。」

私は、走り続けた疲れと涙で、うまく声が出せなかった。

「怪我はないわね?
車に乗りなさい。」

お母さんは何かを察したように、真剣な顔になった。

お母さんは車を走らせた。
お父さんの帰りを待たずに。

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「あの人が、何もなくてマーヤを一人で帰すはずがない。
何かあったのね。
あとは任せて、私がこの子を守ってみせる。」

お母さんが独り言のように呟いた。

私は、車の中で、お母さんに一部始終を話した。
お母さんは、「うん。うん。」と、優しくうなずきながら、聞いてくれた。

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「マーヤ、これから長旅になるかもしれないから、寝てなさい」

お母さんがそう言って、私が寝たのを確認すると車のラジオをつけた。

私は寝たふりをして、ラジオを聞いていた。

<巨大なゴリラが人々を襲っています!
銃で撃っても全く効いていないようです!
みなさん、速やかに避難してください!!
あぁ!!こちらに向かってきたぞ!逃げるぞ!!
うぅぉー……>

男の人の叫び声のあと、何も聞こえなくなった。

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お母さんは、ラジオを消した。

(どうしよう、、私が卵を割ったからだ。
ゴリラを怒らせたから。
全部、全部私のせいだ。。)

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「お母さん!私、ゴリラに謝りたい!
ちゃんと、もう一回、謝りたい!」

「マーヤ、その気持ちはとても大切よ。
あなたは、本当に勇気がある子ね。
でもね、マーヤ、あなたには生きていて欲しいの。
何があっても、生きていて欲しいのよ。」

お母さんは、泣きながら言った。

お母さんが泣くのを、初めて見た。

「お母さん、、わたし、、」

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ドンっ!!!

何が起きたか分からなかった。
急に車が飛んだ。

ゴリラが、私たちが乗っている車を投げた。

「お母さん?
 …お母さん!!」

お母さんは、ピクリともしなかった。
頭から血がたくさん流れてた。

私も頭が痛くて、触ってみると、手に血がついていた。

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私は決めた。
私はシートベルトを外して、割れた窓から外に出た。

「ゴリラさん!!
あなたの大切にしていた卵を割ったのは、私です!
ほんとうにごめんなさい!
ほんとうにごめんなさい!!

私はここにいます!
お願いだから、みんなを殺さないでください!!」

私は泣きながら、精一杯の大きな声で、ゴリラに向かって謝った。

ゴリラが私に手を伸ばしてきた。
私は怖くて目を閉じた。

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「おいで。こちらに来なさい。」

耳元で、小さな声がした。

目を開けると、小さな車のようなものに乗っていた。
隣には男の人が座っている。

「あれ?
ゴリラは?
あなたはだれ?」

「私はあなたを助けに来ました。
未来から来たって言ったら、わかりやすいかな。」

「え?未来??」

「君を、森へ入る前の時間に送り届けることが、僕の役割だ。」

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「え?!過去に戻れるの?
じゃあ、いま、タイムスリップしてるの?
みんな、助かるの??」

「過去に戻るわけじゃない。
みんな助かるわけでもない。
きみ、パラレルワールドって聞いたことあるかな?」

「わかんない」

「さっき君がいた世界とは別に、同じ時間軸に別の世界が存在するんだ。」

「べつのせかい?」

「そう、別の世界。
いま僕は、その"別の世界"を作りだそうとしてるんだよ。」

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「他の人たちは別の世界だって知ってるの?」

「いや、知らない。君だけだよ。」

「どうして私を助けたの?」

「さっき、君はゴリラに向かって行ったよね?
あのあと、君はゴリラに殺されるんだ。
その後も、ゴリラは人々を殺し続ける。
あのゴリラの種族は他の国にもたくさんいてね。
世界中で一斉に暴れ出して、
人類は滅びるんだよ。」

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「え?! ゴリラは、私を恨んでたんじゃないの?」

「最初は、君だけを殺そうとしてた。
でも、森で猟師に会ったでしょ?
その猟師にいきなり撃たれて、恨みの対象が、君だけではなく、人類全員に変わったんだよ。」

「でも、あなたは生きてるんでしょ?」

「僕たちは、君たちがいる次元からは目に見えないんだ。
僕たちは、5次元の世界で生きている。」

「5次元???」

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「ちょっと難しかったかな。
つまり、君たちとは違う世界の住民てこと。

おっと、話が脱線したね。
君を助けた理由、だったね。

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さっき話した通り、この後人類は滅亡する。それを阻止するためにきた。

さっきの世界では滅亡するけど、別の世界で生き続けてもらうために。

そこで、滅亡の原因を作った君を連れてきたってわけだよ。

僕たちは、君たちの世界に直接手を加えられないんだ。

だから、君が死ぬ直前でないと連れ出せなかった。
君は、さっきの世界ではちゃんと死んだことになってるよ。」

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私は全然話が理解できなかったけど、私のせいでみんなが死んだということだけがわかった。

「いいかい、これから、森へ入る前のところまで君を連れて行く。
君は、絶対にゴリラの卵を取りに行っちゃいけないよ。」

私は、大きく頷いた。

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私は、大量の汗をかきながら目を覚ました。

私はマーヤ。
今日、31歳の誕生日を迎えた。

時々、あの日のことを夢に見る。

あの日、私は"別の世界"の森に入ろうとするお父さんを必死で止めた。

私が卵を取らなかったとしても、別の誰かが取りに行って、同じことになるかもしれないと思った私は、毎日森に通って、少しずつゴリラと仲良くなろうとした。

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最初は警戒されたけど、ゴリラはもともと大人しい性格だということがわかった。

こちらが攻撃しない限り、襲ってくることはない。

あの時、お父さんが卵に手を伸ばした時、お父さんを襲わなかったことを思い出した。

結局、私がゴリラをモンスターにしてしまったんだ。

見た目が大きくて怖いから、モンスターだと決めつけてしまった自分を恥じた。

誰もゴリラを傷付けることなく、研究することができた。

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見た目はゴリラにそっくりだけど、生体系はまったく違う生き物だった。
卵を産む時点で、普通の巨大なゴリラではないとわかっていたけれど。

人々とゴリラたちは、とてもよい関係を築くことができた。

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私は時々思う。
なぜ、お父さんではなく、私をこの"別の世界"へ連れてきたのか。
はっきりとはわからないけど、
この記憶を私に残しておくためではないかと思う。

今後、同じような過ちを犯しかねない。
そう判断されたのか。
私が知らないだけで、いくつもの"別の世界"で、私は大変な過ちを犯してしまう危険な存在だったのか。

または、この罪を背負いながら生きることが、私の犯した罪に対する罰なのか。

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いま、私の腕の中には娘がいる。
娘を愛おしそうに見つめる夫を見て、私は微笑んだ。


私は、ひとつの世界で、人類を滅亡させてしまった。
決して忘れてはいけない。
なかったことにはできない。
犯してしまった罪を抱えながら、私はこの先も生きていく。

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