夢の仕事
世界には、2種類の人間がいると思う。
主役になれる人間と、主役になれない人間。
俺は、間違いなく後者だ。
俺の人生を映画にしたら、どんな天才監督の手にかかっても、退屈な映画になってしまうだろう。
燃えるような恋もしていなければ、青春全てをかけて熱中した思い出もない。
ごく普通の家庭に生まれは俺は、特別な才能や夢もなく、なんとなく、家から一番近い大学に入学した。
ただ、ひとつだけ憧れたものはあった。
高校時代、文化祭でクラスの演劇をやったとき、初めての感覚を味わった。
ただの脇役だったけど、それでもすごく楽しかった。ワクワクした。
役者になりたい。
そんなことを言ったら、きっとみんな笑うだろうと思った。
お前には無理だって。
自分でもわかってたから、そんな気持ちが膨らむ前に、自分で蓋をした。
あぁ。どうせ死ぬなら、無理でもいいから、もっと演じてみたかったな。
役者の道、目指してみればよかったな。
俺は死ぬ直前、そんなことを考えた。
打ちどころが悪くて即死だったみたいだけど、神様が少しだけ時間をくれたのかな、と思うほどに、最後の瞬間だけ、すごくゆっくり時間が流れた。
いろんなことを考えることができたのに、所謂"走馬灯"みたいなものは、特に流れなかった。
バナナの皮を踏んで死ぬなんて、なんて間抜けなんだ。
俺らしい。。
なんにもなかった俺の人生に別れを告げて、目を閉じた。
なんだか、周りが騒がしい。
救急車の音や、女の人の泣き声。
そうか、俺はまだ生きてたのか。
ゆっくり目を開けると、俺は映画館にいた。
「は?なんで映画館?」
疑問が口からでた。
大きなスクリーンに映し出されているのは、倒れた男性に覆い被さる女性。
映画?
なにがどうなってるんだ?
俺はさっき死んだんじゃなかったのか?
これは夢か?
間もなくして映画は終わり、電気がついた。
スーツを着た男性が、近付いてきた。
「目が覚めましたか? 誰だおまえは、という顔をしてらっしゃいますね。
私は、案内役の田中と申します。
これから、この場所の説明と、あなたのお仕事について、ご案内させていただきます。」
「え?仕事?」
俺はさっき死んだはずなのに。と言おうとしたが、変なやつだと思われるかと思って言葉を飲み込んだ。
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