リレークロス二次創作をする物好きはおらぬか

私が漫画の世界に転生できるとして、絶対に行きたくない作品の筆頭が鬼滅の刃だ。
 先に断っておくと、私は鬼滅の刃が嫌いなわけではない。むしろ好きな部類であり、だからこそ声を大にして行きたくないと言える。
 一般人は鬼に食われて死に、鬼殺隊に加入しても大抵は鬼に食われて死ぬ。
 鬼になって人を脅すならジャンプ至上最悪の上司である鬼舞辻󠄀無惨に一生を捧げなければならず、上弦の連中は一部を除いて異常者まみれ。下弦は文字通り解体され、その下は一般の鬼殺隊士にも劣る。
 閑話休題。私が置かれている状況に目を向けることにしよう。
 私は今、襲いかかってきた鬼らしきものを滅多打ちの滅多刺しにして殺したのだ。
 気がつけば山の中で、現在地も不明。鬼滅の刃の世界に飛ばされたなどという(悪)夢のような結論に至るひど幸せな頭は持ち合わせていないが、現状では一番納得のいく仮説だった。

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だが、目の前の鬼は一応初対面だ。私は社交性があると自負している。自己紹介もないなんて、大人でなくとも中学一年の私でも少し気持ち悪い。
私は、はりきって鬼滅の世界での第一発見者である鬼に(まあ、目玉と四肢は潰してしまったが耳はあるので)大声で挨拶し始めた。

「こんばんわっ!! 山桜中学校一年六組、
山上風桜ともうします!! チャームポイントはこのオッドアイと赤茶のナチュラルマッシュです!!」

オッドアイなんて痛々しいと思っただろうか、だが、オッドアイは二色の組み合わせが下手で無ければ、そもそも美しい人体の個性である。痛々しく思う風潮でほんものに美しいことを感じ取れないなんて、損である。
ちなみに右はラムネの瓶の薄水色で、左は昔の駄菓子屋にあったコーラの飴のようなオレンジ、髪の毛はヨーロッパ人の家の煉瓦の色だ。
どちらも私にとっては両親からの贈り物だ。
あ、伊黒さんにキャラ被っちゃってるわ。

必死に自己アピールしている間に、鬼から何か匂いが放たれる。私が外食するときによく嗅ぐ匂いだ。

「あ、夜があけた!!」

すると、ますますその潰れた鬼はその焼肉屋の美味しそうな匂いを強めた。鬼の体が焼けていっているらしい。

不思議と怖くなかった。

絶対に行きたくないと思っていた作品だった。
鬼を殺す時も必死で殺されるよりも殺してやると、人間の狩猟本能が剥き出しにしていたはずなのに。

目の前のご馳走を前にして心が悦いと感じ始めていた。

理性を飛ばし、山の柔らかい地面に這いつくばって犬のように鬼をちぎっては食べ、ちぎっては食べた。
まさに極上の味だった。天国で天女が食べているものと言われても疑わないだろう。元人間の油まみれの体から油が口内に溢れかえり、その度に旨みが喉を攻めてきた。
人間を食い、旨みと筋肉が凝集された味は芸術的ですらあった。

「うまい!!!!!」


私が一心不乱に食べていると、うめき声が聞こえた。私から二つ木を挟んだ所になんと、人間が倒れているではないか。その人間は眉を寄せて苦悶の表情を浮かべながらも、覚める気配は無い。外傷が無いことを確認して、揺すぶるとその人は目を開けた。

「大丈夫!? こんばんわっ!! 山桜中学校一年六組、山上風桜ともうします!! チャームポイントはこのオッドアイと赤茶のナチュラルマッシュです!!」

その女性はまだ覚醒していないのか、光を灯したての目でぼんやりと私を見つめる。
見るに女性はおそらく女子大生あたりの年齢。
女性よりやや体格の勝る体付きで筋肉がついており、私の二十センチより上で、百七十センチ以上ある。
そして、糸を引いたような目つきに薄い唇をしている。その容姿はどことなく儚げでうつくしかった。
そして、彼女の近くには現代でいう竹刀が転がっていた。
いや、まさに現代の服装を彼女はしていた。

「まさか、貴方も鬼滅の世界に来てしまったのか!?」

「あれ、ここは何処だ」

「鬼滅の世界だよ! 私は貴方と同じ日本人」

「鬼滅? あぁ、確か従兄弟が読んでいたな。だが、実在しているのか?」

「分かんない! とりあえず、お姉さん名前は?」

「すまない。自己紹介が遅れたな。私は美剣綱子。剣那智大学四回生だ」

「じゃあ、ツナちゃん。お腹空いてるでしょ? これ食べてみてよ」

そういって、私はツナちゃんに鬼のこんがり焼けて旨そうな足のヒラメ筋を取り出した。

「な、なんだこれは。サクラ。君、どの生物の肉を持ってきたんだ。ちっとも上手く無いぞ」

ツナちゃんはそういって足の筋肉を吐き出した。

「ツナちゃん。それは鬼の足だよ」

「鬼……? なんだそれは食べ物なのか、鬼滅の中では」

「ツナちゃん何も知らないね。一巻も読んだことないでしょ」

「あぁ、親が厳しいもんでな。漫画は触れたことすらない」

「じゃあ、何も知らないツナちゃんの為に私が鬼滅の世界を出られるようナビゲートするよ!!」

そういって、私はさっそくツナちゃんを引っ張って、山を下山することにした。

「馬鹿、サクラ、君裸足だと足を怪我するぞ。何か巻くものでもあった方がいいんじゃ無いか」

「大丈夫だって〜」


ツナちゃんの立ち姿は綺麗だった。
姉を思い起こさせる腰まである長髪がそう思わせるのかもしれない。
私は姉とツナちゃんの立ち姿を比べた。

「サクラ? 大丈夫か、やはり裸足で下山はよく無かったか?」

「んーん。大丈夫」

そんなこんなで下山を初めて一日で山を降りきり、そろそろ夜が始まる。
私は鬼を食べた分、体に不自由は無いがツナちゃんは下山の間、何も食べていない。

「サクラ、ほんとに大丈夫なのか? 疲れてきたなら、そろそろ休むか」

「いやー、多分私は大丈夫なんじゃ無いかな」

なんせあの鬼を食べたから。
鬼を食べた体は一切の不自由もなく、むしろ自分の体にエネルギッシュな印象を与えていた。
下山すると、そこには田んぼがあり、鬼滅の世界らしい木造建築がならんだ村だ。

「もしかして、時代はかなり前なのかこの世界」

「そうそう。確か、大正かな」

「大正」

どおりで静かなわけだ。とツナちゃんは手を打った。だが、それよりも民家に人の温もりを感じられないのが、気がかりだった。

「ツナちゃん。ちょっと安全じゃ無いかも。
ここ」

「本当か?」

「少し、しーってしよ」

「理解」

短く返すとツナちゃんと私は足音を抑え、近くの民家を覗く。

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