氷雪のデザイア
魔法が存在し、公に使用が認められている地球のパラレルワールドの一つであるプラネットマギア。
各々が定めた”終着点”に辿り着くために、魔法使いたちは自分が扱う魔法属性を一つ選び、それを極めようと日々鍛錬をしている。
この世界の規則により、15歳までに扱う魔法を選ばないとそれ以降は魔法を使いたいと思っていても、その可能性はもう存在しない。
そのため、国々は小中高一貫の魔法学院をいくつか建てている。
この物語は日本の魔法学院の一つである”皇魔法学院”に通うことになる氷上(ひょうがみ)氷聖(ひさと)が主人公であり、彼はのちに”氷雪”と呼ばれることになる。
「準備は済んだか?」
「ああ、終わったよ父さん」
「忘れ物はないの?」
「ばっちりだよ母さん」
皇魔法学院で寮生活をするために俺、氷上氷聖はそのための準備を1週間前からしていて、それが遂に終わったのだ。
皇魔法学院は高校生三年間の寮生活は強制であるが、使う部屋は一人部屋で、やろうと思えばいつでも外部との連絡が取れる。
特に制服などなく、髪を染めてもやりすぎない限り問題はなく、学院敷地内にはゲームセンタ、カラオケ、モールなどが存在しているため、学院生活は苦ではないと、ここから卒業していった先輩方が言っていた。
なぜこれだけの自由が許されているのか、それは他の魔法学院にも言えることだが、犯罪を犯さない限りここでは実力がすべてだからである。
実力というが、それは魔法を扱うのが上手いかどうかだけではなく、魔法に対する知識を持っているだけでそれは実力である。
どちらか片方が得意であれば、それは実力者と呼ばれる。
この魔法学院の特徴の一つとしては、”無駄なことをやらない”である。
そのため、入学式はあっても、新入生に「入学おめでとう」みたいなのを言うだけで、そのあとは自分のクラスを確認し、すぐに初のホームルームをすることになっている。
普通の学校にある学園長または校長の長い”お言葉”がない分、新入生たちはうれしいのだろう。
「Aクラスを担当することになった田中(たなか)奏多(かなた)と言う。扱う属性は水属性だ。自分の苗字は好きではないから、奏多先生と呼ぶように。よろしく頼む」
「「「よろしくお願いします」」」
「では早速自己紹介に移すとしよう。まずはお前からだ紅城(あかぎ)瀬那(せな)」
最初に自己紹介をするのは紅色のロングヘアが特徴の紅城家の令嬢である紅城瀬那。
誰がどう見ても美少女であり、普通乳でスタイルは良い。
そのためほとんどの男子は鼻を伸ばしている。
「紅城瀬那と申します。扱う魔法属性は炎です。三年間よろしくお願いします。」
この世界の魔法使いたちがどの属性を扱うのかは髪の毛を見ればだいたいわかるようになっている。
元々は黒色の髪の毛だが、扱う属性を選ぶとそれに応じた色に髪は変色する。
自分が扱う属性をわからないようにするために、わざと髪を染める人はいるが、珍しくはない。
紅城から始まった自己紹介は順調に進んでいき、いよいよ俺の番である。
「氷上氷聖です。扱う属性は想像にお任せします。三年間よろしくどうぞ」
「なんだ氷上、自分の属性を言わないのか?」
「はい、奏多先生。別に言う必要はないと思いますので」
「ふむ、それもそうだな。失礼した。では次」
奏多先生がああいうことを言ったのは、俺の髪を見ても属性がわからないからだろう。
自分の髪は珍しく銀色で、どれだけ調べても自分と同じ髪色をしている人はいなかったみたい。
こうなった理由はわかっているから、自分は疎外感を感じていないが、ほかの人からしたらどうだろうな。もしかしたら「異端だ!」と言う人が現れるかもしれないが、気にしないことだ。
その後も自己紹介が続いていき、最後には限りなく黒に近い紫色の髪のクラスメイトの番になった。
「崩紫(なぎしば)紫織(しおり)です。扱う属性は闇です。よろしくお願いします」
「全員、自己紹介が終わったな?今日はこれで終わりだ。さて明日の予定だが、今回の新入生は外部から来た者が多いということで、この学院の委員会の説明、その後は教材の配布を行う。今日と同じく午前中のみで、すべてが終わったら各自解散していいとのことだ。荷物の整理が終わっていなければ今日中に済ませること。それと、明日は遅刻しないように。では解散」
(もう友達ができた人らがいるのか、すごいな。このクラスで知り合いがいたならば自分もまだここにいただろうけど、生憎そういう人はいないし、荷物の整理は終わってない)
だから寮に戻ろう。
「おはよう諸君。昨晩はちゃんと眠れたか?本日は予定通り、委員会の説明と教材の配布を行う。それじゃあ柳、号令を頼むぞ」
「はい。起立、礼」
「「「よろしくお願いします」」」
「はじめに、委員会の掛け持ちは可能だが、その仕事量をこなせるかどうかの調査を行い、こなせると判断されて初めて掛け持ちが許可される。では委員会の説明に移る」
「最初は放送委員会だな。これは普通の学校と変わらず、放送による通達や、行事の司会などを行う」
「次に図書委員会だが、司書の指示の下、図書室の管理を行う。当然のことだがここは魔法学院。ということは、魔法を習得するために必要である魔導書があり、そしてそれは図書室で管理されている。一般生徒は魔導書を借りることができないが、図書委員会や風紀委員会、そして生徒会に限っては魔導書を借りることは可能だ。もちろん許可を取ってからだがな」
次々と委員会の紹介は行われ、そして残ったのは風紀委員会と生徒会だけとなった。
「風紀委員会だが、主な仕事は学院の風紀を守ることだ。何かのトラブルが起きた際、まずは言葉によるトラブル解決を行うが、不可能と判断された場合は力をもって無理やり解決をしてもいいことになっている。これ以外だと、学院に訪れた重要人物の護衛を任されることもある。例外を除き、一年生は風紀委員会に入ることができない」
「奏多先生、質問をしてもよろしいでしょうか」
「紅城か、それで質問は?」
「例外を除き、一年生は風紀委員会に入ることができない、と先生は言いましたが、その例外というのは例えばどのようなことですか?」
「それは主に教師からの推薦や、風紀委員による推薦だな。これでお前の質問には答えれたのかな?」
「はい。ありがとうございました」
「最後に生徒会だが、皇魔法学院の生徒会は高い権限を持つ。一般生徒が閲覧できない情報をいつでも閲覧できるのはもちろんのこと、風紀委員会や生徒会以外の委員会に所属している生徒の別委員会強制移籍、生徒会内で投票をする必要はあるが、生徒を強制退学させることもできる。生徒会長に至っては、学院の規則を変えたり、学院行事に何かを加えることもできる。そして風紀委員会と同じく、基本一年生は生徒会に入ることができない」
「質問があればすぐに答えるが、なければこのまま教材配布をやるぞ」
委員会の紹介や教材配布が終わり、委員会決めは来週の月曜日を行うとのこと。
そしてそのまま解散することになっているが、解散を言う前に、教室のドアがノックされた。
「誰だ?」
「二年の風神(かがみ)です」
奏多先生がドアを開けると、そこに現れたのは白のロングヘアをした女子生徒で、胸にあるバッジを見るに、二年生のようだ。
「生徒会長か。それで何の用だ?」
「氷上という生徒を探しているのですが」
「氷上ならそこにいるぞ。あいつ何かやったのか?」
僕がいる席を示すように、先生は僕を指さした。
「いいえ、彼と話がしたくてこの教室に来ました。解散する前に来てよかったです」
風神と名乗る先輩は僕に近づいた。
「久しぶりだね氷聖」
「ああ、一年ぶりだね楓華(ふうか)姉さん」
「なんだ、お前ら姉と弟の関係だったのか。苗字は違うがそれは?」
「家の伝統みたいなもので、属性を選んだ時に自分で新しい苗字を使うことになっているんです」
「ということはこいつは氷属性を選んだのか」
「あれ、先生は知りませんでした?」
「ああ、こいつが『自分が扱う属性は想像にお任せします』なんて言ったからな」
「ふふっ、なるほど。氷聖らしいです」
「それで氷上と話がしたいと言ったが、もう連れて行っていいぞ」
「ありがとうございました。行こっか氷聖」
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