転生してもネタ被りは避けられないので、開き直ることにしました
「そうだ、死のう」という衝動は、ある日、ある時、突然に訪れる。
例えばそう、とある小説投稿サイトで自分が書こうとしていたネタとまるっきり同じ内容の作品を見つけた時。それが自分よりずっと技巧も表現も優れていると分かった時。それが自分よりも何歳も年下だと分かった時。
まさに今。水上深月は、死ぬことに決めた。
ゴォゴォと吹き荒れる風が今にも自分を攫おうとしている。
台風が接近して大雨強風注意報が出ているこんな時に、8階建てビルの屋上に出ている人間など他には居ないだろう。
辛い事ばかりだったけれど、ここ数ヶ月は本当に楽しかった。
会社の新卒に勧められ、生まれて初めて乙女ゲームなるものをプレイした。
一番好きになった隠しキャラクターは、何がどうあってもヒロインとは結ばれない運命にあった。
27歳。オタクとしては遅咲きなのは100も承知だったが、SNSのアカウントを作り、ネット上だけど友人を増やして、二次創作というものを知った。
大好きな彼とヒロインをどうにかして幸せにしたい。それだけの想いで生まれて初めて小説を書いた。
拙い文章だったけれど、皆が使っている小説投稿サイトに投稿してみた。
★がつくことが嬉しくて、たまにもらうコメントが嬉しくて。それで満足していればよかったのに、どこかで歯車が狂ってしまった。
初めての重なりにどこか酔ってしまったのかもしれない。
★がもらえないことに苛立って、書いた作品に感想を送ってくれないネットの友達に空リプで嫌味を言ったりして。
こんな醜い自分になんてなりたくなかった。
私は彼と彼女を幸せにしたいだけだったのに。
ブラック企業が入っているビルの屋上の鍵を簡単に手に入れられるところに置いておくなんて、総務も杜撰だなあ、なんて思う。
ビルの下は霧に覆われていてよく見えない。
これなら怖くない。さっさと身を投げて、死んでしまおう。
ルルドと名前のないヒロインの貴女、きっと幸せになってね。
株式会社ドリームドリーム様。
是非続編を作って彼とヒロインを幸せにしてあげてください。
ああ、これ遺書に書けば良かったかなあ。
深月は今世を終わらせるべく、ぎゅっと目をつむった。
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