もぐもぐ。〜失った感情と味〜

1口目

 自分は猫。

それだけは分かる。

特にこの肉球を見れば嫌でも分かる。

逆を言えばそれ以外は分からない。

名前も知らない。

考えるのが面倒くさい。

何もかも面倒くさい。

何もしたいと思わない。

いや、何もというのは間違いだ。

いつの間にか手に持っていた、おにぎりを食べたいと思った。

何もかかっていない白いおにぎりだ。

無性にお腹へ入れたいと思った。

お腹は空いているのかは分からない。

だが、空腹感はない。

ただ、無性に目の前にある白い塊を口に入れ、飲み込みたかった。

だから食べた。

もぐもぐ。

何の味もしなかった。


 ???「空(から)の味を獲得」

1 / 2ページ

2口目

そこは丘の上だった。

見渡す限り、人工的なものは見当たらない。

ぽかぽかと暖かい日差しがさしている。

ひらひらと目の前を何かが飛んでいる。

捕まえようと手を伸ばすが、華麗にかわされてしまう。

あきらめた。

その何かを目で追いかける。

すると何かはひらひらと降りていき、黄色い花の上で止まった。

その何かは、その上で羽をゆっくり閉じたり開いたりしている。

何をしているんだろう。

花に近づいた。

そして、顔を近づけた。

その何かは口から出る管を花に突き刺していた。

その光景をずっと見ていた。

何か惹きつけられるものがあったのだ。

しばらくすると眠くなってきた。

抗うことなく眠気に身を任せた。

ずっとこうしていたい。

目を閉じて少し経った時、俄かに明るくなった。

目を開けるが、眩しくてよく見えない。

おそらく大きな音が鳴っているのだろうが、なんらかの力が働いているのか、うるさく感じない。

しばらく経つと徐々に視界が戻ってきた。

あたりは変わっていた。

一面、緑から茶色に変わっていた。

土の色だ。

下を見ると、自分中心に半球の形に地面が消し飛んでいる。

もちろん、目の前の花も黄色い何かも跡形もなく消し飛んだ。

残ったのは自分だけ。

心の中でモヤモヤとしたものが残った。

ふと気が付くと、右手におにぎりがあった。

やっぱり何もかかっていない。

何も考えず口に入れる。

体が、考えるよりも前に動く。

そして飲み込んだ。

あぁ、そうか。

これが悲しみか。

その瞬間意識は遠のいていった。

ここからずっと離れた丘の上に冒険者の少年と少女が居たことは知る由もない。

ただ、その場所に残ったのは食べかけのおにぎりだけだった。

 
 ??? 「悲しみの味を獲得」

2 / 2ページ

募集期間は終了しました。

続きの公開までもう少々お待ちください!

「続き」を投稿して「佳作」以上を獲得すると閲覧できます。

最終話へ