とりあえず冒頭だけ
人間ドラマ①
ビッチとか売春女だとか、言われてもあまりピンとこない。
誘ってきたのはアッチだし、べつに恋愛感情があってしているわけじゃない。
じゃあどうして? って大抵は訊いてくるけど、答えはいつも同じだ。
「それを相手が望んだから」
そう言うとみんな泣きながら殴ってくる。喚いたり叫んだりして気のすむまで。
それで血だらけになった私を見つめながら彼女たちは叫ぶんだ。
「アンタが全部悪いんだ」って。ハハッ。
スポーツ①
ホームランを打たれたのは内角高めの直球だった。
その前のスライダーが打者の頭に残っていると思ったらしい。あわや死球になる所を腰を引いたバッターの反応を窺っていた。
狙い通りと笑みを浮かべて、相手は腰を畳んでバットを振り抜いた。
「ドンマイ、切り換えよう。次だ次!」
打たれた直後、俺はマウンドに駆け寄った。
ピッチャーは、「ああ」と頷いて汗を拭った。
俺が要求したのは外角のカーブだった。
ファンタジー①
とにかく、自由になりたかった。
一刻も早くここから出て、外の世界に出たかった。
前の場所では乱暴に使われて、用済みになるとすぐに戻された。きっと代わりが見つかったんだ。
普段の餌と飼われたところで与えられる餌に大きな差はなかった。だからボクにとってはどっちも地獄みたいな場所だ。
ある時、檻が開けられた。大きな爪のようなものを持って誰かが立っていた。ボクをころす気なんだ。
ボクは飛び立った。
復讐系①
カレーパンが食いたい。
ふと思った。
とくにカレーが好きというわけでもない。朝はごはん派だ。
けれど無性にカレーパンが食べたい。
いや、やっぱりカレーパンじゃなくてもいい。焼きそばパンとコロッケパン以外なら何でもいい。
アイスクリームは今はいい。美味しいものは食べたくない。
アレルギーだけどそばが食べたい。
というかもう何でもいい。
地面に落ちなかったものなら。
「おえ……」僕は吐いた。
恋愛もの①
花が生まれた。
その時は未熟児で、身体も弱かった。本が好きで、部屋に持ってってやると、「お兄ちゃんこれもよんで」とよくせがまれた。
花の身体は少しずつよくなっていった。小学校低学年の頃は体育ですぐに息があがってよく保健室にいたが、年々その回数も減っていった。
今ではたまに体調が悪くなる程度だ。
「兄さん、朝ごはんできたよ」
扉の奥で花の声がした。俺は起き上がって返事した。
「すぐ行く」
ホラー①
友達に山田くんという人がいるんです。
性格はやんちゃで、おまえヒマだよなとよく飲みに誘われます。
お金ですか? もちろんオゴリですよ。
まずは生とビールで乾杯し、適当につまみを注文しました。
私はイカの塩辛だけ食べました。
話は特に盛り上がりません。一方的に聞くだけなので。
帰りに山田くんにコーヒーを奢らされました。そしてトイレに行くと言ったきり、戻ってきませんでした。
私は帰りました。
コメディー①(一億円で友達を買う)
一億円あったら何が買えるか。
うまい棒1000万本なんて誰しも考えたことだろう。
俺は車に興味はない。
酒は高いものになると歯止めがきかなくなる。金がかかるような趣味も特にない。
家は、いまので間に合っている。
親にもらっていた仕送りはもう返した。
「おめでとうございます。こちらが3等の一億円になります」
一億円を受け取った俺は
その足でペットショップに向かった。
俺は友達がいなかった。
SF①
人類史を語るうえで欠かせないのが、その移り変わりの瞬間だ。むかしのヒトはそれを、「進化」とよんでいたらしい。
身体の形が変わったりして、機能が発達するようになった。会話ができて、コミュニケーションがとれるようになった。
そうやってはヒトは進化してきた。けれど人類史は、たった一つの出来事をきっかけに滅びてしまう。
オトナの存在だ。
オトナが世界を滅ぼした。
そしてボクたち「コドモ」が生まれた。
バトル①
鉄が風を切り裂いて両断する。
ぶおんと音を立てて大気を断じ、赤い血潮が飛沫を上げた。
亡骸は音を立てて倒れ込み、剣の軌跡が亡骸の表面をうっすらとなぞるように痕をつけている。
死体は二つには割れなかった。
「修行不足」と男はため息をついた。
求める剣は、血も出ず、痛みもなく、ただ一様に命だけを切り取る業。
人としての形を保ったまま罪人を殺すことであった。
しかし男は処刑人ではなかった。
日常①
花子が死んだ。
トラックに轢かれたらしい。
トラックの運転手は、花子が飛び出してきたことにも気づかなかった。花子も他のことに気を取られて死角から接近するトラックに気づかなかったのだ。
葬式は一人でやった。他の誰も呼ばなかった。
その帰り道、花子によく似た仔猫を路地の影で見つけた。
首輪をしていたが、どう見ても捨てられていた。
私はその仔猫を拾って育てることにした。
名前は幸子と名付けた。
異世界①
ササモト=ヒデオ
それがこの世界での私の名前です。
以前は小さな町医者をやっておりました。
この世界に降り立ってからも、その経験を活かして人だけでなく、モンスターの治療も引き受けています。
しかしながら、この世界にはメスもなければ麻酔もありません。治療をするたびに患者の方々の苦痛に歪んだ顔を見るのは五十の年寄りには結構な酷でした。
道具も麻酔も無ければ、私とて少し物知りな唯の人だったのです。
お仕事①
妖怪と仲良くなりたい。
それが子どもの頃からの夢だった。
私の実家の温泉宿がある【岩巻町】は歴史的にも妖怪と関連が深く、よく大人の人達から色んな妖怪の話を聞かされた。
そんな環境に身を置いていれば自然と妖怪に興味を持つのも仕方ないだろう。
いつか妖怪の体を流したい。傘お化けの傘は本当に傘できているのだろうか。当時はそれが気になって仕方なかった。
「すいません、やっぱり辞めさせてください」
スローライフ①
実家は頼めば何でも出てくるレストランだった。
いや、レジを通さなくて良いコンビニといった方が正しいかもしれない。
とにかく、ウチには何でもあった。
今はない。何もない。
全部ひとりで、一から作らなければいけない。それは食べ物だけじゃなくて、住む場所もだった。
「今日はこれで凌ぐか」
始めたばかりの釣りで奇跡的にヒットしたアジに似た魚を桶に入れる。
こんな生活が一週間ほど続いていた。
音楽系①
どんな名曲でも音痴が歌うとそれはただの騒音です。
三曲目にアップした歌の感想欄にそう添えられていた。
どれだけ映画で優遇されても、ジャイアンの歌は決して上手くなったりしない。人間性は変えられても、生まれ持った声質は変えることができない。
どれだけ曲作りの才能があろうと、歌う人間がヘタクソでは意味がないのだ。
まだやってたんですか。いい加減近所迷惑です。
十曲目の感想欄にはそう書かれていた。
社畜系①
入社式でポカやってクビになった。
会場にたまたまスタイル抜群のグラマラス美人がいたから声をかけた。
体調が悪いと言ってきたので肩を貸すと、休憩室に向かう途中で甘い吐息を耳に吹きかけてきた。
「こっちに来て」
「はい・・・」
誘われるまま人気のない場所に移動した。
彼女はウチの社長の一人娘だった。
コトのあと、彼女はオレに言った。
「ワタシのペットになりなさい」
転職が決まった。
つかれました
「続き」を投稿して「佳作」以上を獲得すると閲覧できます。
もしよかったらコメディー①みたいにタイトルでも付けてください。