ホームレスだけどなんか文句ある?
つい最近まではネットカフェ難民として生きていた。
都内のネットカフェでカップラーメンやスナック菓子を食べながらくだらないネットの掲示板で会話をするような生活。
ネットの会話だけはいつも強気。
しかし、新型コロナウイルスの影響によりネットカフェが休業となったのだ。
貯金もいよいよゼロ。
そう、僕はネットカフェ難民からホームレスになった。
「やべぇ…マジでどうしよう…」
ツヨシは一人佇んだ。
とりあえず向かった先は24時間営業のファーストフード店。
しかし、ここの店もどうやら今は24時間の営業はしていないようだ。
「くそぉ…」
街を歩くと、路上で座り込むボロボロな服に身を纏うホームレスを見て焦燥感と恐怖を覚えた。
実家には頼れない。
そもそも、実家には家を出てから一度も帰っていない。
正直、あの憎らしい義父の顔など二度と見たくなかった。
あてもなく閑散とした夜の商店街を歩いていると「神はいつでもあなたを迎えます」という看板が目に入った。
その下には”聖シャット教”と書いてある。
知らない名前の宗教だった。
今日の宿は決まった。
迎えいれてくれなかったら
「あんたの神は今日、留守かい?」
とでも言ってやろう。
ツヨシは恐る恐る古びた扉をノックした。
「なんだよ…誰もいないのか…」
暫く経っても反応が無く、諦めて後ろを振りかえったその時、ギィーっと今にも壊れそうな音を立てて扉が開いた。
「…何か用か?」
出てきたのは、長い髭をはやした全身黒尽くめの老人だった。
髪も肩まで伸ばしており、奇妙な目でツヨシを見つめた。
「あ…いや、その…ここは泊まれるんですか?」
老人の奇妙な面持ちにツヨシは同様してしまった。
「泊まれるけど、ここの掃除、洗濯、炊事、その他諸々の手伝いをしてもらうけどそれでも構わないか?」
老人は何か危険な取り引きでもしてるかのような鋭く警戒した眼差しでツヨシを睨んだ。
「…あの、はい!何でもやります!」
老人に圧倒されたツヨシは何も考えずにそう答えてしまった。
安易に老人の誘いにのってしまったのが悲劇のはじまりだった。
ツヨシは静かに玄関の扉を閉めて中に入ると、そこは足の踏み場もないような、まさにゴミ屋敷。
なんとか部屋の奥にあるやっとのことで座れる場所についたものの、強烈な異臭。
部屋には空き缶や食べ残したコンビニ弁当の容器がそこらじゅうに散らかっていた。
ツヨシはとてつもない後悔と恐怖に襲われた。
「じゃあ、まずはそこのトイレから掃除しといてくれや」
老人は何の遠慮もなくそう伝えて、奥の部屋へと姿を消した。
「やばい…無理だ…」
ツヨシは命の危険すら感じ、老人が見えなくなったことを確認してすぐさま玄関の方へ向かった。
山のように積まれたゴミをなんとかかきわけながら玄関の前までたどり着いた。
すると、奥から老人が鬼のような形相で叫んだ。
「おい!貴様、何処へ行く!」
老人の声を無視しながら、勢いよく玄関の扉を開いて走った。
「貴様、待て!」
老人が発狂しながら追いかけてきたが、さすがにツヨシに追いつくことはできず、距離が開いていく。
ツヨシの頭にはとにかく逃げることでいっぱいになり、とにかく走った。
暫く経って老人の声も聞こえなくなり、1人立ち止まった場所は、雑居ビルが立ち並ぶ薄汚い裏路地。
ツヨシは全力疾走した息を整えて状況を整理した。
「本当にやばそうなとこだった…」
荒れた呼吸を整えてツヨシは考えた。
手持ちのお金は3500円。
場所は新宿の少しはずれ。
世間はコロナで閑散とし、店も閉まってる。
ツヨシはとてつもない恐怖と焦りを覚えて、ただ歩いた。
暫く歩くと、青いビニールシートで覆われた塊がいくつも並ぶ公園に辿りついたのだ。
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