夢で食うと書いて夢食
「働いているからって人よりも偉いと思うなよ」
二階堂篤は満員電車が待つ駅に吸い込まれていくサラリーマンを見ながら、誰宛ということでもなく吐き捨てるように言った。
二階堂は生まれてこのかた一度も働いたことがない。就職はおろかアルバイトすら未経験だ。
そんな生活を可能にしたのは本人が持つ幸運のおかげだ。生活に必要な金は真面目で頑張り屋の両親が多量に残してくれた。人生を二回遊んで暮らせるぐらい。
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二階堂は最近まで自分のことを「勝ち組」だと信じて疑わなかった。
そして毎日、僅かばかりのお金をもらうために、自分の貴重な時間を削って、やりたくもない嫌なことをしている他人たちを「負け組」と罵ってもいた。
二階堂にとって毎日、都心へと向かう満員電車は中世の奴隷船そのものだった。
彼には毎日の日課がある。
駅前のベンチで酒を飲み、女と話しながら職場へと向かうサラリーマンたちを嘲ることだ。
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